西研さんの「哲学的思考」の続きです。
フッサールもそうなのですが、西研さんも、ユークリッド幾何学やニュートン物理学を、万人に納得されやすい、普遍的な真理性を備えている、と説きます。
でも、ニュートン物理学にしろ、ユークリッド幾何学にしろ、現在では、厳密な意味では、真実ではないと考えられています。実際、そのような考えが広がってきたのは、フッサールの活躍した頃なのですね。
ニュートン物理学は、ご存知、アインシュタインの相対性理論、および、多くの方が作り上げた量子力学で、粉々に打ち砕かれてしまいました。
ユークリッド幾何学が真実ではなくなった、というお話は、あまり一般的ではないと思いますので、簡単にご紹介しておきますね。
ユークリッド幾何学は、5つの公準を、天下り的に、これは正しいものと考え、これと用語の定義から、さまざまな定理を導きます。で、この公準なのですが、
(1)1つの点から他の点にただ1つの直線を引くことができる、とか、
(2)有限の直線を延長することができる、とか、
(3)任意の点を中心に任意の距離で円をかくことができる、とか
(4)すべての直角は互いに等しい、
とかは、まあ、当たり前の話だと言っても良いのですが、
(5)1つの直線が2つの直線と交わってできる同じ側の内角の和が2直角より小さいならば,2つの直線を限りなく延ばしたとき,これらは内角の和が2直角より小さい方で交わる、
コレはどうでしょう。
この第5公準、三角形の内角の和が2直角である、ということや、平行線と交わる直線のなす二つの錯角は等しい、ということと等価でして、どちらかを受け入れれば、他が証明できます。
ま、二つの錯角は等しい、なんてこと、認めて良いように思います。だって、二つの平行線を限りなく近づければ、やがて一本の直線に近づく。二つの錯角、同じ角度になることは容易にわかる。でも、コレを離していったとき、角度が変わらないかどうか、証明はできないのですね。(非常に離れたところから見れば良いかも、、、)
で、ユークリッドの第5公準、いろいろな人が証明を試みたのですが、全て挫折、そこで、コレを外した幾何学を、色々考えるようになったのですね。
まず一つは、三角形の内角の和は2直角よりも小さいというロバチェフスキー、もう一つは、三角形の内角の和は2直角よりも大きいというリーマンの幾何学。
まあ、そんな馬鹿な、という方がおられるかもしれませんけど、たとえばアメリカのワイオミング州、東西南北の州境は全て直線で、角のところで直角に交わっています。でも、これ、長方形じゃない。北の州境、南の州境よりも短いのですね。つまり、台形をしているのです。なんでこんなことになるかといえば、地球が丸いから。まあ、だから、州境、直線ではなくて、三次元的に円弧を描いています。
もしも人間が二次元的な存在で、高さを感じ取ることができなければ、巨大なスケールでユークリッド幾何学は成り立たないことに気付くでしょう。
実際、人間は、ほとんど二次元的にしか動けない。だから、大昔、人々は世界が平らだと思っていたのですね。
エジプトのヒト達は地球が丸いことを知っていたらしいけど、仮に、そうじゃないとしましょう。で、縄張り師、縄を張って測量をする。ま、ピラミッドを建設するのには、ユークリッド幾何学、十分に成り立つ。ところがあるとき、帝国の地図を作れと命じられたとしましょう。このヒト達、実に正確な測量ができるとしたら、とてつもない問題にぶち当たる。
ま、それで、地球は丸いということに気付けばよいのですが、もしかすると、三角形の内角の和は2直角よりもわずかに大きい、それも、大きな三角形になると、その狂いは大きくなるのだ、なんて事を発見したりするかもしれないのですね。
さて、そんな話は、地球が丸いから、で済むのですが、実はこの宇宙空間、我々の知らない次元で曲がっている。それもどうやら、大雑把に言えば、丸いらしいのですね。
その原因は、宇宙空間に分布する質量が作り出す重力、これで空間は歪んでしまうんだそうです。
だから、厳密なことを言えば、ユークリッド幾何学、我々の住んでいる世界では成り立たないのですね。リーマン幾何学こそが、この世界で唯一正当な幾何学。つまり、三角形の内角の和は、二直角より大きい、コレが正しい。
勿論、この違いは、わずかでして、実際は、ユークリッド幾何学が成り立つと考えても、何の問題も生じません。
まあ、普通の生活では、ほとんど関係ない話なのですが。でも、それを言ったら、地球は平らと考えても、大して困らない。
厳密な学問、って一体どんなものなのでしょうね。