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ゼーガペインと実在の闇


ゼーガペインというアニメは、なかなか難しい要素を含むアニメです。そこで、本日は、この難しい部分について考えてみることにいたします。

まず、主人公キョウの住んでおります舞浜、実は小さな箱に格納された舞浜サーバなる計算機の中の世界で、現実ではない。現実は、一見非現実的な、巨大ロボットで戦闘を繰り返している世界、というわけです。

このシチュエーション、はいはい、と受け入れるのは少々難しい、といいますか、現実のこの世界も、計算機の内部の世界と、基本的には同じである、とも言えるのですね。

まさかそんなことが、と言われるかも知れませんから、まずその点からご説明いたしましょう。

この世界を構成しているのは、クオークと呼ばれる物理的粒子、一種のエネルギーでして、世界の動きは物理現象で説明されるのですね。だから、ヒトも物理現象のなせる業でして、我々の生命も、精神的活動も、全て物理現象の一つに他なりません。

この物理的世界と、計算機の内部の世界とでは、物理的世界が物理法則に従っているのに対して、計算機内部の世界はより自由度が高い、という違いがあります。

でも、計算機の世界の動きも、物理法則に束縛することも、実は簡単にできるのですね。これを行っているのが、計算機シミュレーションでして、今日では、工業製品や建造物を作るとき、広く一般的に行われています。

とはいいましても、計算機シミュレーションは近似的なモデルを用いておりまして、模型実験や試作品での評価、なんてことも、一般的です。で、この模型実験、なのですが、物理法則がインプリメントされた粒子を用いた計算である、とも言えるのですね。

まあ、デジタル演算の場合、離散化、ということが行われておりますので、連続的な世界とは数学的には異なっています。でも、人の感覚からは、離散化に伴うぎざぎざが見えないくらい、充分に細かく離散化することもできるのですね。更に、大昔使われておりましたアナログ計算機は、物理現象そのものでして、離散化もありません。これを更に精密にした演算的行為が、物理的実体を用いた実物試験なり模型実験、というわけです。

さて、物理的に存在するものはエネルギーの空間分布だけである、ということは、かのデカルトも書いているのですが、そのとき、我々にとって意味のあるものは何か、といいますと、概念である、と彼は言うのですね。

で、この概念なのですが、先日ご紹介いたしましたウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読むを読んでおりましたら、面白いことに気付きました。

つまり、我々の概念、ソフトウエアの世界で言う「オブジェクト指向」なのですね。

注解C++リファレンスマニュアル(ARM)の最初にあります、オブジェクトとは記憶領域のことである、の真似をいたしますと、オブジェクトとは物理的実体のことである、と言えそうです。つまり、ソフトウエアオブジェクトの実体が広大な記憶領域の一部分であるのに対応して、宇宙に広がるエネルギーの空間分布の一部分が物理的オブジェクトの正体である、ということなのですね。

で、オブジェクトは左辺値で参照できまして、単純な例ではオブジェクト名、もうちょっと複雑には、ポインタということになります。ま、物理的世界のオブジェクトは、太郎君、といった名前で参照することもできますし、太郎君のママ、といったポインタで参照することもできるわけですね。

で、オブジェクトには型、クラスといったものがありまして、整数型や実数型などの単純なものから、日付のような少々複雑なもの、あるいはウインドウとか、その上に置かれたボタンなどの、非常に複雑なものまで、色々とあります。

で、物理世界のオブジェクトのクラスは、実は概念に対応しておりまして、りんご、とか、犬なんてのがクラスに対応するのですね。で、具体的なオブジェクト、たとえばポチは、犬型のオブジェクトである、というわけです。

クラスには、クラス特有のデータ(インスタンス)と、操作(メソッド)が付属おりまして、たとえば犬型であれば、体重、毛色、種類などなどがインスタンスでしょうし、散歩、などというメソッドが付属しているのですね。

更に面白いことに、クラスには、上位クラスを継承するということもできまして、たとえば犬型のクラスであれば、動物型を継承し、動物型は生物型を生物型は個体型を継承する、なんてこともできるのですね。

この継承、複数のクラスを継承することもできまして、たとえばりんご型なら果実型と食材型を継承することができまして、果実型には生物学的な果実の諸特性が、食材型には食材としての特性、たとえば味だとか、栄養だとかが付属している、というわけです。

あ、それで、大事なことは、ソフトウエアの場合、メモリーがどうのこうの、というよりは、この変数やあの変数がどうなったか、ということが我々の関心事でして、物理的世界でも、エネルギーの空間分布などよりも、クラスとして認識された物理的オブジェクトがさしあたりの関心ごとなのではないか、ということなのですね。

で、そうなりますと、実体がエネルギーの空間分布であるか、デジタルデータであるか、なんてことは、些細な問題、なのかも知れない、などと、ゼーガペインを見ながら考えていた次第です。