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藤沢周平「用心棒日月抄」を読む

本日は、先週から読んでおりました藤沢周平著「用心棒日月抄」をご紹介いたしましょう。

そもそもなんでこの本を読むに至ったか、といいますと、JR東日本の新幹線に備え付けられておりますトランヴェールの1月号がこの特集を組んでいたからなのですね。トランヴェールの編集者、藤沢周平のファンらしく、以前も「蝉時雨」の特集を組んでいた模様です。

まあ、それはともかく、トランヴェールを斜め読みした限りでは面白そう、ということで早速読んでみることとした次第です。

さて、同書は「用心棒日月抄」に始まり、「孤剣」、「刺客」、「凶刃」と、4冊が出ておりまして、全部読まねば評論もできまい、との思いから、少々ご紹介が遅くなってしまいました。

まあ、涼宮ハルヒの9冊や灼眼のシャナの18冊に比べれば、はるかに冊数も少ないのですが、、、

同書はそれぞれ独立した本ですし、「凶刃」を除き、それぞれが独立した数話の短編から成り立っておりまして、時間の合間にちょろっと読むには手ごろな本です。とはいえ、全体を通してのストーリーもありますので、読むなら最初からとするのがお奨めです。

内容は、腕の立つ浪人、青江又八郎が用心棒をする、というありがちな話なのですが、その目的が経済的理由、すなわち生活の為、というところが泣かせます。で、入ってまいります仕事も、犬の護衛や少女の護衛など、あまりぱっとしないものが多いのですね。

まあ、あまり内容をご紹介してしまいますと、本を読む楽しみがなくなってしまいますが、これらに出てまいります江戸の地名が、今日の地下鉄の駅名でおなじみのものが多く、東京都内に土地勘のある人なら、ははあ、あの道を通って、、、などとイメージを膨らませることができるところが面白い。

さて、最初のお話であります「用心棒日月抄」は、赤穂浪士の吉良邸討ち入り事件と並行してお話が進みます。

まあ、このシチュエーションはなかなか面白いのですが、最後に吉良邸の用心棒として雇われるのは、少々解せない話ではあります。

と、いいますのは、基本的スタンスが赤穂の浪人を支持する側にあるのですが、そうであるなら、いくら金の為とはいえ、吉良邸の護衛を引き受けるべきではないのですね。

おまけに、討ち入りの情報を察知して、お払い箱となるように仕向ける、というのは、武士の美学に反するように、私には思われます。吉良邸サイドは、討ち入りがあると思うから用心棒を雇っているわけであって、討ち入りがあるからと逃げ出すのでは、武士の風上にも置けません。

ここは、私流になおさせていただければ、最後まで用心棒としてとどまるべきであって、討ち入ってまいります赤穂の浪人をことごとく切り捨てる。で、江戸市中から大いにブーイングを受けるのですが、これに対してたった一言、「それがしは武士にござる」と言うのですね。

まあ、これでは史実に反してしまうのですが、元々このお話が史実とは異なるフィクションの世界。このくらいの歴史改変は、まあ、許されるのではないかな、やっぱり駄目でしょうかね。

武士としての筋を通すためには、身の危険は顧みない、世間の批判を甘んじて受ける、というのが武士の美学ではあるように私には思えるのですね。で、せっかくこれまでのお話が、武士の一分を守って展開されてきただけに、残念な話ではある、と思いました次第です。

さて、シリーズ4冊目の「凶刃」は、これまでの3冊とは趣がぜんぜん違います。

まず、お話は16年後。主人公の青江又八郎はメタポ気味。用心棒仲間の細谷はアル中と、なんだか冴えない話になってまいります。おまけに使命が口封じ、ということで、なんとも暗い話になるのですね。

4冊目のこの本は、読まなくてもよかったかもしれません。まあ、それがわかるのは読んだ後、というのがちょっと哀しいところ。あるいは、4冊でお終いのこのシリーズの、終わりを飾るのにちょうど良いのかもしれませんが、、、

と、いうわけで、なぜか文句ばかり並べてしまった感がありますが、少なくとも最初の3冊はお奨め。移動中や待ち時間など、ちょっとした時間を豊かに過ごす上では絶好の書物、といえるでしょう。

特に、東京に土地勘のある人なら、なかなか興味尽きない本でもある、と思う次第です。