本日はちょっと毛色の変わったところで、山田克哉著「日本は原子爆弾をつくれるのか」を読むことといたしましょう。
同書の特徴は、核爆弾の原理から作り方までを懇切丁寧に解説したものであって、これを読みますと、全くの素人にも核兵器ができてしまいそうです(これは多少言い過ぎではありますが。)
広島、長崎に惨状をもたらしました米国の核兵器を開発いたしました「マンハッタン計画」は、全くのゼロから研究を開始して、わずか3年後には核爆弾を投下するに至っております。
今日では、すでに核爆弾の構造は知られており、計算機も普及しております。またわが国には大量のプルトニウムが蓄積されており、その気になれば極めて短時間で核兵器ができてしまいそうです。
しかし、同書は、そうではない、と主張いたします。わが国がそうそう簡単に核兵器が作れない理由といたしまして、同書は次の点をあげております。
・研究者が本気で核兵器を開発しようなどとは思わないであろうこと。
・核拡散防止条約に署名し、IAEAの査察を受けていること。
・予算(3~4,000億)の獲得と設備投資
・わが国に蓄積されているプルトニウムのほとんどは兵器級の純度ではないこと
・実験場所がないこと
・ミサイルの技術がないこと
しかし私が思いますには、これらは取るに足らない理由であるように思います。むしろ、著者がこのような記述をいたしました理由が、この本を書いているうちに実に簡単に核兵器が保有できることに気付いて愕然とし、政治的な理由でこれを否定する記述を補っているようにすら思われるのですね。
そこで、ここでは、核兵器の作り方に関しましては同書を読んで頂くことにして、わが国が核兵器を保有することが、それほど困難であるのかどうかについて、検討してみることといたします。
まず、最初の課題は、わが国が核兵器を保有する必然性を国民の多くが理解し、政治的合意が得られる必要があります。このひとつのきっかけは、北朝鮮が核兵器でわが国を恫喝するような事態が生じ、米国がわが国の窮状に冷淡な姿勢を示す、などの国際情勢が考えられるでしょう。
ひとたび国民の理解が得られますと、4,000億程度の予算はわが国の経済力から考えましてなんら問題ではなく、核拡散防止条約を破棄してIAEAの査察も当然拒否することになりますし、優秀な研究者のなかにも核兵器を開発しようという意欲をもつ者が現れるでしょう。
兵器級のプルトニウムは、実は少しであればわが国は保有しております。つまり、もんじゅの使用済み核燃料からは、兵器級のプルトニウムを取り出すことができます。その量は60 kg、長崎型原爆10発分です(同書p170)。
これ以上のプルトニウムがほしいのであれば、もんじゅの運転を再開すればよいだけの話です。確かにもんじゅは事故を起こして停止しているのですが、運転できない主な理由は事故隠しなどの政治的な理由であって、現在ではすでに運転再開へ向けての動きが進められています。
わが国がIAEAから脱退するとなりますとウラン禁輸という措置を食らう可能性があり、そうなりました際にはウランの入手をどうするかという問題が生じます。
しかし、ウランは海水から回収することもできまして、経済性はともかくとして、資源的な問題はないということもできます。現実的には、ウランは石油とは異なり、原子力発電と核兵器用を合わせてもさほどの量にはなりませんので、禁輸を食らう前にイエローケーキの形で備蓄しておくのが良いでしょう。
ウランを燃料にするためには濃縮する必要があります。これには種々の方法が提案されているのですが、古典的な遠心分離法であっても、今日の技術を使えばきわめて効率的かつ経済的に実施することができます。
といいますのは、遠心分離法の最も難しいところは、多数の細長い分離筒(直径4cmX長さ50cm)を毎分10万回転という高速で回す必要があるのですが、今日では高速回転に適した空気軸受けの技術が発達しており、たとえばレーザプリンタなどでも広く使用されております。最新の技術を使用すれば、より小型で効率的な遠心分離プラントができるはずです。
爆縮技術に関しましては、同書もさほど困難ではなかろうとしております。実際、爆薬を使用した金属材料の接合技術は爆発圧着と呼ばれ、わが国でも工業的に実施されております。レンズの設計に関しましては、同書も指摘しますように、わが国の技術は世界最先端の域に達しております。2点起爆型のシンプルな爆縮レンズの開発が当面の課題となるでしょう。
と、いうわけで、核爆弾そのものは比較的簡単に作ることができ、政治的な問題さえ片付けばこれに要する時間はさほどかからないと思います。更には、シミュレーションによる研究や爆縮レンズの設計と実験などは現行法の枠内でも可能であり(もちろん陸上自衛隊研究本部などで秘密裏に進めるのですよ)、そうしておけば、ひとたび核兵器開発にゴーサインが出た後は短期間に完成させることができます。
さて、核爆弾が簡単にできたとしても、国土の狭いわが国といたしましては、実験は少々問題です。ここは、地下核実験しか選択肢はなさそうであり、そうであるならその深度を増すことで地上への影響をなくすことを考えるべきでしょう。おそらくは北海道の人里はなれた山奥に、こうした実験施設を作ることになるのでしょう。
東京の地下が穴だらけであることからも推察されますように、我が国ではシールド工法の技術が発達しております。地下核実験の実験場も、このような技術を応用すれば、短期間に建造できるものと思われます。
あとは運搬手段でして、同書は「かぐや」の技術を使えばよいとしておりますが、国産ミサイルの技術もありますし、航続距離を伸ばすのは燃料を大量に積めるように設計変更すればよいだけの話です。また、巡航ミサイルを新たに開発するというオプションもあります。
実際問題といたしまして、わが国の保有しております空対艦ミサイルの弾頭重量は220kg、射程は150kmとなっております。これらは充分に核兵器の運搬手段となりえるのではないでしょうか。
爆撃機が返り討ちにあうのを防ぐためには、射程を少々増やしたいところですが、燃料タンクの容量アップはストレッチ・リムジンみたいにして簡単に改造できるものでしょうか。いずれにせよ、長距離ミサイルを最初から開発することを考えれば、改造を検討するほうがはるかに容易でしょう。
ミサイルに核弾頭を搭載する場合、軽量化が最大の課題となります。これに最適と思われる技術が同書183ページ以降に紹介されております。この技術を用いて1956年に米国が実験を成功させました「スワン」は、直径30cm、長さ58cmの卵形で重量は50kg弱、威力は15kTと長崎型原爆よりも多少低くなっております。
おそらくは、最新のコンピュータシミュレーションを駆使いたしますと、これよりも更に小型の核弾頭を開発することができるでしょう。これに必要なスーパーコンピュータの分野でもわが国は、地球シミュレータを建設するなど、世界の先端を走っております。
地上の標的に誘導するならミサイルの制御はGPSを使用すれば良く、艦船や航空機を攻撃するのに比べて、いわんや月周回軌道を狙うのに比べますと、はるかに簡単であるということもできます。
と、いうわけで、わが国の核武装は、政治的な要請さえありましたらきわめて短時間で可能と思われます。つまりは、北朝鮮が胡乱なことを考えますと痛い目にあうであろう、ということはいえると思います。
北朝鮮に限らず、各国首脳の方も、充分お気をつけになるのがよろしいかと存じます。