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C.メラー著「相対性理論」でのスピンの扱い

本日は、C.メラー氏の「相対性理論」を取り上げ、特に、スピンの扱いについてみることといたします。

四元ベクトルの扱い

内容をご紹介する前に、ここに至るいきさつについて簡単に触れておきます。

以前のブログで、レオン・レーダーマン著「量子物理学の発見」を読んだのですが、その中核的話題でありますスピンで躓いてしまいました。

その後、スピンについて考えてみたのですが、この部分、四元時空で考えますと、かなりの難物であるように思われます。

一方、先日のブログで、四元時空のミンコフスキー流の取り扱いについて議論したのですが、こちらは比較的すっきりと理解できます。

そこで、同じ取り扱いをしております、C.メラー氏の「相対性理論」で、スピンの扱いがどうなっていたかをチェックした次第です。

メラー氏の座標の表記は第IV章「相対性理論の4次元的定式化:テンソル算法」で展開されます。メラー氏の四元ベクトルは、たとえば座標に関しては、空間座標をxとするとき、4元座標を(x, ict)と表します(p97)。これは先日のブログでの議論と同じです。

一方、メラー氏は、四元運動量を(p, iE/c)と書きます(p101)。もちろん、式の展開上は、空間成分と時間成分に虚実の違いがあれば、あとは符号を適当に設定すればどうでもなるのですが、哲学的には、運動量が何であるかを、もう少し、きちんと考える必要がありそうです。

つまり、運動量の空間成分は、時間が分母に入っていますので虚数とし、(p/ic, E/c2)とするのが妥当であるように思われるのですね。

まあ、ここはあまり文句を言わずに先に進めることといたしましょう。

角運動量(スピン)の扱い方

同書で角運動量が出てまいりますのは107ページなのですが、ここをちょっと引用いたしましょう。

(xi) = (x, ict)を質点の世界線上の1点の時空座標、(pi) = (p, i(E/c))を質点の4次元運動量とする。この2つの4元ベクトルから(76)によって反対称テンソル

(82)  Mik = xipk - xkpi

をつくる。このテンソルの空間部分は、反対称の空間テンソルである角運動量テンソルMikである。この成分は角運動量ベクトル

(83)  M = x × p

との間に次の関係がある。

(84)  M = (Mx, My, Mz) = (M23, M31, M12)

なお、(76)式はtik = aibk - akbi = -tkiなる直積(direct product)を与える式です。

ふうむ、、、スピンは空間成分だけを用いる、というわけですね。これなら確かに何も問題は生じないのですが、せっかく四元ベクトルを用いて議論しているわけですから、残りの成分はどうなるのか、という点は大いなる疑問であるように私には思われるのですが、、、

まあ、この本、全部読んだわけじゃありませんから、この先のどこかできちんと書かれているかもしれません。でもこの本、そうそう簡単に読み進められるようなものでもないのですね。

と、いうわけで、簡単に答えにたどり着くことはできなかった、というのが、今回のエントリーの結論でした。

スピンにこだわる理由

12/18追記:ここで、改めてスピンにこだわる理由について、簡単に述べておきます。

レオン・レーダーマン著「量子物理学の発見」では、「進行方向のスピン」が重要な役割を果たしております。

で、「進行方向のスピン」とは何か、と考えますと、これが難しい。

つまり、進行方向とは、粒子自身からみますと、時間方向に他なりません。もちろん、粒子から見た観測者の移動方向の逆方向が、空間的な意味で、粒子自身の進行方向であるということもできるのですが、複数の観測者がそれぞれ別の方向に移動しながら運動する粒子を同時に観測する、などといったシチュエーションを考えますと、粒子の空間的な移動方向は、粒子固有の特徴を表す方向であるとは言い難いように思われます。

四元時空におけるスピンという謎

2017.1.14追記:そもそも、粒子を観測する者の運動が観測される粒子自体の性質に影響を与える、などということは起こりそうにありません。もしそんなことが起こっていたとしたらこだわり物理エンジンのようなメカニズムが自然界にも存在することとなるのですが、複数の観測者を許すならこのメカニズムは成り立たないのですね。

粒子の移動方向のスピンが粒子の時間方向のスピン(分極なり、磁気双極子)であるとしたとき、これを静止する観測者からみれば粒子の持つ量の時間成分の一部が空間成分として観測されます。これが特殊相対性理論の効果なのですが、通常は、光速に比べて非常に小さな速度では、この効果はほとんど観測されない。でも、スピンの場合、0, 1/2, 1,...といったとびとびの量としてしか観測されえないのであれば、この効果は十分に大きな値として観測されることもあり得るのですね。

そういうわけで、この問題は、私にとりまして大いなるなぞ、ということになっております。

スピンの相対論的効果と不確定性原理

10/20追記:上の追記で議論しました相対論的効果が非常に大きく表れている、という点は、少々奇異な感じも致します。

しかしながら、スピンを与える式M = x × pをみれば、この程度の振れが生じることは理解できます。つまり、位置と運動量の積は、不確定性原理に従う振れを持っているのですから。

理解に苦しむ点は、観測者と粒子の相対運動の大小に係わらず決まった値でそれが現れる、ということ。この問題はしかし、量子力学の根幹にかかわる問題であるようにも思われ、そうそう簡単に説明がつくようには思われません。


スピンはMkj = XkPj - XjPk のようにベクトル積で与えられ、差を求めておりますので、相対運動の大小はキャンセルされるのかもしれませんね。まさかとは思いますが、この式を見ておりますと、不確定性はスピンを知ることができないから生じる、などという可能性に思い当たりました。この式では、kとjは別物なのですが、、、


2019.5.22追記:以前の本ブログのエントリー「虚数時間の電磁気学」の最後に書きましたように、回転(ローテーション)は、方向で定義されるのではなく、平面で定義されます。

3次元の場合は、平面を定義すればこれに直交する方向が自動的に定まりますので、平面で定義するのも方向で定義するのも同じことなのですが、4次元になりますと、二つの方向が作る面を定義しても、これに直交する方向が二つ残ってしまいます。

上のリンクで説明しましたように、電界Eと磁束密度Bは、いずれも4元ベクトルポテンシャルAの回転として定義され、空間軸のみを含む回転が磁束密度Bを与え、その空間的な方向は回転を含む面に直交する空間方向であり、時間軸を含む回転が電界Eを与え、その空間的な方向は回転に含まれている空間方向となります。

4元時空中でのスピンも、本来はこれと似た与え方がされなくてはいけないはずなのですが、いったいどうなっているのでしょうね。