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FXをやるとなぜ破たんするのか

以前も取り上げましたMechaAG氏がFXで損をする理由について書かれていますけど、これはちょっと違うと思いますので、以下簡単に議論しておきましょう。

まず、MechaAG氏が損をする理由として主張されているのが「ランダムウォークでは出発点から徐々に離れていく」という原理です。

ランダムに右か左に決まった歩幅で移動しておりますと、出発点からの距離の「二乗」が歩数に比例いたします。つまりは、歩数の平方根に比例した距離だけ出発点から離れていくのですね。

平均値がゼロなのに出発点から離れるのはおかしいように思われるかもしれませんが、右に離れていく人も左に離れていく人もいて、全体を平均すれば出発点になる、これが平均値がゼロという意味です。

でも、個々の人を見れば、右に離れていく人もいれば左に離れていく人もいるのですね。中には、たまたま出発点に留まる人もいるのですが。

このような現象は、静かな水中に垂らした着色水が全体に広がっていく「拡散現象」等でもおなじみで、着色部分は全ての方向に均等に広がっていきます。これも、分子レベルでランダムウォークが起こっているが故に生じる現象です。

ランダムウォークをFXにあてはめて言えることは、FXをやる人は、利益を上げる人もおれば損をする人もいる。そしてそれらの損得を平均すればゼロになる、ということでしょう。

もちろん、FX業者の利益となります手数料に相当するスプレッドやスワップポイント等もありますから、平均すればマイナスになる、と統計的には言えるでしょう。

でも、手数料は為替の変動幅に比べれば小さいですから、儲ける人は儲け、損する人は損する、という事実には変わりはないはずです。

ところが、FXの場合は、多くの人がはまりがちな問題点があり、この結果、損する人が多いという構造的な問題があります。

この問題は、以前このブログでもご紹介した「天才数学者、株にハマル」に書かれているのですが、継続的な投資の利益は算術平均ではなく幾何平均で与えられる、という問題なのですね。

この二つの平均の違いですが、対象となる数値の和を個数で割ったものが算術平均で、対象となる数値を全てかけ合わせて得られる積の個数乗根をとったものが幾何平均です。

資金を分割して多数の銘柄に投資をすれば、その平均的な利益は算術平均で与えられます。一方、全ての資金をどれか一つの銘柄に投資するということを繰り返し行った場合の平均的な利益は幾何平均で与えられます。

幾何平均の恐ろしいところは、繰返し行う投資のいずれかで資金の全額を失えば、平均値はゼロになってしまう、という点です。FXの場合にはこれに相当する強制ロスカットがあり、高いレバレッジを掛けた場合にはこの可能性が無視できなくなる、という点が問題なのですね。

これを防ぐためには、多くの銘柄に分散して投資することが重要なのですが、同じ動きをする銘柄に投資したのでは分散投資の意味がなく、異なる動きをする銘柄に投資することが肝要となります。これがいわゆる「リスクヘッジ」ということになります。

リスクヘッジを行うためには、さまざまな投資対象に対する幅広い知識が必要になります。これは、個人投資家にはなかなか難しいのが問題です。

強制ロスカットを防ぐためには、追証を入れればよいのですが、これをつづけていると、全ての資金を単一の銘柄に集中させることになってしまいますし、時には投資などに使ってはいけないお金までつぎ込むことになってしまいます。

これは個人投資家が陥りやすい誤りで、むしろ、あらかじめ決めておいた損失が発生した場合は、自分の意志で損を確定する「損切」という手法が重要となります。心理的には、なかなか難しいことではあるのですが、、、

MechaAG氏が紹介している漫画「FX戦士くるみちゃん」では、豪ドル一本で勝負していますので、強制ロスカットを食らえばゼロ。長い間取引をしていれば、いずれかの時点で強制ロスカットとなる確率は非常に高く、高確率で損をする、ということがいえるわけです。

もちろん、極めて低い確率で巨額の利益を上げることもないわけではない。でも、そんなことをしたいなら、宝くじでも買っておいた方が吉だと思いますよ。

まあ、宝くじの期待値は投下資金のおよそ半分、こちらも最初から損をしているようなものではあるのですが、、、


11/5追記:このエントリーに対してMechaAG氏が疑問を呈されています。なんか、交換日記みたいでおかしいですけど、簡単に追加をしておきます。

まず、ランダムウォークと大数の法則の関係は、一見矛盾するように見えるのですが、矛盾はしない、というお話をしましょう。

確率1/2で+1か-1を加算するといくつになるか、というのがランダムウォークで、初期値(たとえばゼロと置きます)からの距離の二乗の平均が加算回数(Nとします)に比例します。逆にいえば、合計値の絶対値の平均は√Nになる、ということですね。

大数の法則は、確率1/2で+1か-1となる値の平均値はいくつになるかという問題でして、平均値は合計値をNで割った値ですので、√N / N = 1 / √N となり、Nを増やしていけばゼロになるわけです。(それ以前に、プラスとマイナスがあるからゼロになるのだが、、、)

さて、多数の投資家がいてプラスになったりマイナスになったりを繰返すのですが、損益は合計値で与えられますので、儲ける人もいれば損する人もいる。

年収という意味では、投資金額が同じなら、儲けている人といえど、その投資人生を通しての平均年収はだんだん減少するのですが、儲けている人は投資金額が大きくなりますので、ますます儲けていてもおかしくはないのですね。

まあ、こういうやり方はどこかでおおこけしてゼロになる確率が高いのですが、、、

もう一つは、儲けた人、損した人をひとまとめにして全体の平均をとれば、その結果はゼロになる。まあ、これはあたりまえの話ではあります。


11/5追記その2:MechaAGさんの応答はものすごく速いです。

基本的に、MechaAGさんの書かれていることは正しいのですが、私が気になった点はただ一点。ランダムウォークは試行回数が進むにしたがって出発点から離れていくということなのですね。どれだけ離れるかといえば、その期待値が試行回数の平方根に比例するということなのですね。

それがあるから、MechaAGさんが最初に書かれていた以下の部分が引っかかったわけですね。

でも最初に2回余分に出た表はそのまま残っている。しかし10回のうち2回の偏りと、100回のうち2回の偏りは後者の方が比率は小さい。なので「無視できる」となる。でも2回余分に表が出ている事実は変わらない。

ランダムウォークで元の点からずれていくのは、最初の隔たりが残っているからではなく、ランダムウォークの全過程を通して、元の点から離れることが期待されるわけです。

もちろん、合計ですから、最初の隔たりは合計値の中に永久に残るのですが、その後もずれがずっと生じていく効果が大きい、というか、これがランダムウォークそのものなのですね。

まあ、MechaAG氏も、本当にいいたいのはそういうことであって、話を簡単にするために「2回余分に出た表」というような言い方をされたのではないか、という気に、今はなってまいりました。

そういうことで宜しいでしょうか?