団藤保晴氏の12/30付けBLOGOSエントリー「新型コロナにアジア人は欧米より強いよう」にコメントしました。
本エントリーには、少々問題があります。
この手の論評は無視してもよいのですが、他にも同様の問題を抱えた論評が多いため、多くの人の誤認防止する意味で、以下に解説を加えておきます。
BCGは、結核が撲滅されていない国で接種されております。その意味するところは、BCG接種の有無という因子には、各国の衛生状態や、これを支える経済発展段階、結果としての年齢別人口構成（所謂人口ピラミッド）の違いなどが関係しているのですね。
このため、BCG接種とコロナによる死亡の関係をみる際には、これらの影響を取り除いて議論する必要があります。
たとえば、BCG接種のおこなわれている発展途上国では、結核やその他の疫病による死亡も多く、人口に占める高齢者の比率が小さいことが予想されます。そして、高齢者が少ない国では、高齢者の死亡率が高い新型コロナによる死者は少なくなってしまいます。
また、衛生状態の悪い国々では、それだけ衛生に気を遣うということもあるだろうし、疫病に弱い体質の人（基礎疾患のある人など）が長生きすることには困難も予想されます。つまり、生命力の強い人が選別されているのではないか、ということですね。
これらは、多変量解析における交互作用の問題として古くから知られているものであり、科学的に意味のある結論を出すためには注意しなくてはいけない部分です。
このエントリーにはこの解析が欠けており、その結論は信頼に足るものでないと判断せざるを得ません。
交互作用を無視するという問題に関しては、本エントリーに限られるものではなく、新型コロナに関連してなされた多数の論評が同様の問題を抱えております。このような論評はいずれも科学的要件に欠けており、いずれも信頼すべきものではありません。
返信がついております。
瀬尾 雄三
失礼しました。
（誤）交互作用 → （正）交絡因子 でした。
以前ご指摘を受けていたのですが、別の言葉が出てきてしまいました。すみません。
Toshimi Minoura
このようなことを考慮したうえで、BCG接種と新型コロナウイルス症による死者数の相関関係を調べた論文があります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7395502/
＞ 人口に占める高齢者の比率が小さいことが予想されます。
医療制度、教育制度、経済発展が、悪い国でなくて、よい国ほど死者数は多いとのことです。上記の論文には、ＨＤＩ（Human Development Index、医療制度、教育制度、経済発展などの程度）と、COVID-19による死者数の正の相関関係を示すグラフが含まれています。上記の調査では、この影響は取り除かれています。
同一の国内での同一の条件のもとに、BＣＧ 接種を受けたことがある人たちと受けていない人達の感染数の調査もあります。
https://www.cedars-sinai.org/.../study-tb-vaccine-linked.../
これらの調査では、ＢＣＧ接種とＣOVID-19 による死者数とか感染率の負の相関関係は効果は３０％から５０％だそうです。これは、欧米の死者数が日本の死者数の10倍もあるという事を説明できるほど大きくありません。
追記
先日、相関関係は因果関係でないと攻撃する人達がいましたが、これらの論文は全て相関関係をしめすものです。
瀬尾 雄三
Toshimi Minoura さん
最初にご紹介された論文には、HDI（寿命・教育・識字・所得の複合指数で国が開発途上のどの段階にあるかを示す）が人口あたりのコロナ死者（対数）と線形の関係にあることが示されています。
Toshimi Minoura さんは「上記の調査では、この影響は取り除かれています」と記述されていますが、BCG接種率とHDIの間には強い相関があると考えられ、このような変数を重回帰分析しても多重共線性のため影響を分離することは困難ではないかと思われます。
もちろん、「相関関係がある」という結論であるなら何の問題もないのですが、これではBCG接種に効果ありという結論は出せないわけですね。
その他、先進国内の類似した条件下で、BCG接種の有無によるコロナ死亡率の差を調査した例がいくつか報告されていますが、効果ありとの結果と効果なしとの結果の双方が得られており、BCG接種の効果の有無（因果関係）は明らかとはなっていないはずです。
その後何か、新しい知見が得られているのでしょうか？
ファクターXはあてにしない方がいい