客観に関するフッサールの再定義から、以前のブログでフッサールの書かなかったこと、として相対性理論に言及した関係で、虚数時間に話が飛んでしまいました。でも、今朝方書きましたブログで、こちらは一旦手仕舞いといたしまして、話を本筋に戻すことといたします。
1. 同書のユニークな点
で、ご紹介いたしますのはコンピュータと認知を理解する。この本は、1989年、平成元年の初版と、非常に古い本なのですが、まだ在庫あり、です。ひょっとして、あまり売れていないのかな???
この本は、後書から読むのが面白いかもしれません。著者のデリー・ウィノグラード氏は人工知能研究で知名な方で、自然言語理解に関する研究をされていた方ですが、移り気、といいますか、意表をつく研究を次から次へと始めたユニークな方で、人工知能の限界を述べた本書を出版後、より実用的な、つまりはビジネスになるソフトに路線変更しております。
もう一人の著者、フェルナンド・フローレス氏はチリのアジェンデ社会主義政権の主要閣僚を歴任し、クーデター後に投獄され、数年を経てアムネスティの尽力によりアメリカに事実上亡命してからは、一転して経営学・コンピュータ科学の研究に従事しているとのことで、ウィノグラード氏と共に、「コーディネイタ・システム」を販売する会社を経営している、とのことです。
本書のユニークな点は、きっちりと哲学から知的活動に関して分析を加えた後、人間の精神が行うような知的機能をもつ計算機システムはできない、との結論に達し、より機能を限定した、エキスパートシステムなどに方向を転じております。
2. 人の知性が作れない幾多の理由
で、なぜこれができないか、というと、機械はコミットメントを持ち得ないからである、とします。コミットメント、というのは、責任、というような意味で、人は口にした言葉に責任をもつが、機械にはそれができないから知的活動はできない、というのですね。
しかしこの理屈には、少々首を傾げざるを得ません。たとえば、ネット上には、無数のメッセージが飛び交っておりまして、その多くは、人間精神による何らかの知的活動の結果である、と思われるのですが、そのメッセージがどれほどの責任を伴っているのか、判然といたしません。というよりも、無責任に発信されていると思われるメッセージが、非常に多いのですね。
これまでに、人の脳について書かれた多くの本を紹介してきましたが、そのほとんどは、人間精神と同様な機能をもつ装置を人工的に作ることに懐疑的でした。
無意識の脳自己意識の脳では、情動のない機械は知性をもち得ない、というのですが、このブログに書きましたように、情動も脳の内部でニューロンが行っている情報処理であり、その他にいくつかの化学物質が作用しているのでしょうが、これとても、知的活動においても欠かせない存在であって、結局のところ、感性も知性も、そこで行われていることにさほどの違いはありません。つまり、感性を含めて脳を再現すれば良い、というわけです。
また、同書では、情動は体があってはじめて成り立つ、と主張します。まあ、どの程度までの体が必要であるのか、判然としないのですが、必要ならば、体も再現してしまえばよいわけですね。ロボット、とか、、、
もう一つの本、マインドには、人工知能が不可能な理由が山のように上げてあります。これにつきましては、このブログでも以前ご紹介いたしましたが、いずれの理由も理由になっているようには思えません。
3. 人の知性は人工的に再現できる
人の精神活動と同等の機能を果たす装置を人工的に作りえる、と私が考える理由は、人の精神活動を担うのが、ニューラルネットワークであり、そこには何ら神秘的な作用が見出されていないことによります。ニューロンの機能は比較的単純であり、論理回路などで人工的に再現することはさほど困難ではありません。また、ニューラルネットワークの接続状態は、実際の人間の脳にあるニューラルネットワークを真似る(コピーする)ことでつくり出すことができます。
唯一の問題は、人のニューラルネットワークが非常に複雑である、という点ですが、半導体技術の急速な進歩によりいずれは経済的に実現可能であるものと思われます。まず私の粗々の計算では、20年後、といったところでしょう。
まあ、ウィノグラード氏の主張は、現在のパソコンなどの環境を前提にできない、といっておられるようですので、これらの「本質的にできないのだ」という主張とは異なるものと思われます。それにしても、まじめな人のニューラルネットをコピーすれば、責任感の強い人工知能も製造可能ではないか、と思うのですが、、、
さて、だいぶ疑問点も片付いてきましたので、ちょっとの間中断しておりました「オブジェクト指向の哲学」、続きを書くことにいたしましょうか。夏休みで時間もありますしね。まあ、ご興味のない方には、ノイズ以外の何物でもないような気がするのですが。
虚数時間の物理学、まとめはこちらです。