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温泉宿で読む本は、、、

このブログ、しばらくお休みしていたのですが、その理由は旅行。

昨年末に、長年ホールドしておりましたトヨタを半分処分してかなりの利益を上げたことと、一時ホールドしておりました日本航空の株主優待を使ってしまえ、などの理由がありまして、少々豪勢な旅行を計画した、というわけです。

ただ、JALの優待券は、さほど美味しくはありません。半額といいましても、早割りの方が安い位なのですね。まあ、キャンセルできる、というメリットはあるのですが、、、

今回の旅行、九州のあちこちに行ったのですが、一押しは湯布院、玉の湯です。これ、以前の日経新聞土曜版の「定年後に泊まりたい宿」のベスト1となっておりました。まあ、定年、というわけではないのですが、「株で一発当てたとき」でも大して変らないはず。ここにはこの先、ちょくちょく泊まることにいたしましょう。その前提は、もちろん、株でちょくちょく、一発当てること、なのですが、、、

この宿の良いところは、あちこちに本棚があって、本が置いてある。ロビーに本が置いてある宿は、さほど珍しくはないのですが、どちらかといえば、飾り。こけおどし的な、たいした内容もない本が置いてあります。しかしここは、おそらく宿の主人が、何らかの考えの下に買い求めたと思しき本が置いてあるのですね。

ま、書棚の本は主の人格を表す、などといいまして、このての書棚を公開するのは、一つのメッセージを語っているわけで、己の知的水準に対する自信の現れであると同時に、書棚を眺める人への知的挑戦でもあるわけです。

で、まずは、温泉を扱う本ですが、手に取りました本には面白いことが書いてある、「湯布院は九州の原宿」とあります。まあ、ここに来る道すがら感じたことは、まさにそれでして、軽井沢か鎌倉みたいな雰囲気があるのですね。人力車がいたり、ジャムの店、手作りクッキー、コロッケ、などなど。

まあしかし、九州の原宿、良いではありませんか。九州の原宿、わざわざ関東から行く理由は何もないのですが、地元の人が気軽に原宿の雰囲気を味わえるのは、それはそれで悪くない。経営学的には正しいやり方なのですね。由布院といえば、おしゃれなイメージがありまして、九州では他には長崎くらいしか競合できるところはなさそうです。

次に手に取りましたのが、「ぬけられますか」。滝田ゆうの編集者が滝田ゆうを語るこの一冊、なかなかに深みのある本です。

で、なんでこの本がここに、というその理由に関する仮説にひらめいて、思わず笑みがこぼれた次第です。つまり、滝田ゆうが愛して止まない町は「玉の井」、ここは玉の湯、なのですね。ま、関係ないの、かも知れませんが、、、

その他の理由として、この書棚には、小林秀雄全集が置いてあります。滝田ゆうと小林秀雄、まったく関係がないわけでもない。で、この宿の主人、この部分で関連があるのかもしれません。しかし、そんな理由で「ぬけられますか?」が置いてあるといたしましても、一介の宿泊客に、その背景を推理することは困難、ですよねえ、、、

「ぬけられます」というのは、迷路のような玉の井の遊郭街の入り口に掲げられた看板でして、向こうに抜けることができる、と書いたその看板を信じて通りに入れば、まずは抜けられない、という、ある種の罠なのですね。

で、滝田ゆうの生涯ですが、玉の井の飲み屋で滝田ゆう、私娼街という、大いなる不幸とちんけな欲望の渦巻く世界で、物悲しくも逞しく少年時代を過ごして、苦難のあげく漫画家として大成するのですが、酒におぼれる毎日に思うは失われた世界、玉の井であるわけですね。なにぶん、玉の井私娼街は、戦時中の空襲で、この地上から、永遠に失われてしまったのです。

「ぬけられますか?」を速攻で読了した次に挑みましたのが、「海辺のカフカ(下)」。なぜか下巻しか置いていないのですね、この本棚。

流行りモノがきらいな私は、村上春樹はご遠慮していたのですが、やはりどこかでチェックしておく必要があろう、ということを心の奥底で考えていたのですね。で、旅の恥はカキ捨て、ここで春樹をいっちょう読んでおくのも悪くはあるまい、となぜか上巻がない海辺のカフカ下巻を手に取った、というわけです。

で、読んだ感想ですが、悪くはありません。てーか、これは小説ではありませんね。アニメの原作、とでもいいましょうか。ま、アニメにし難いアニメの原作ですね。なにぶん、シモネタが多すぎます。

まあしかし、こんにちの日本社会の抱える歪の部分を、村上春樹氏、うまく調理しております。しかし、少々作為が目に付く、という感もありまして、余計な部分をばっさり切り捨てれば、魅力的なアニメもできそうな感じがするのですね。

とはいえ、私から見れば余分な部分が、つまりは文学、という奴なのでしょう。ただ、同書が世界から高く評価される、その理由は、アニメ的であるからではないのか、という気がする次第です。ま、海辺のカフカに関しましては、いずれ、稿を改めて分析したいと考えております。

その他、思いましたことは、たまたま相次いで手に取りました、「ぬけられますか?」と「海辺のカフカ」、漫画という形式の私小説と、小説という形式の漫画であって、共にテーマとするのは失われた世界に対するレクイエム。九州の原宿と非難されてしまった湯布院にあります、日本でも理想的とされる温泉宿でこんな本を読むひと時を過ごせたことは、なんとも幸福なことではあるよなあ、と感じたものです。

ま、これからも、大いに一発当てましょう。そして、人生、生きてて良かったと思いましょう。そのためには、日ごろの研鑽も欠かせないわけでして、その一環といたしまして、これからもこのブログ、大いに気合を入れて書いていきたいと思います。みんな、頑張ろうね。

まあ、株で一発当てたからといって、待っているのは、この程度の幸福です。ま、私レベルの投資ではね。でもそれで充分だ、と私は思うのですね。で、これがなぜか「浜辺のカフカ」のカフカ少年の幸福と重なるような、我が人生、ではあるのでした。

ま、これを読んで意味不明の方は、「海辺のカフカ(上巻)(下巻)」を読んでいただくか、いずれ書きますこのブログの、関連する記述をお待ちください。これだけでも、なんとなく、わかっていただけるのではないかと思うのですが、、、


上巻から通して読みましての感想はこちらです。